スポセンあたりまでいくと雨がぱらついてきたので、諦めて家に戻った。
誰かがずぶ濡れになって帰ってきて、
『濡れなかった?』
と聞いたので首を横に振った。
裏庭は秋の林が黄金色に包まれていた。積もった落ち葉が柔らかい。
私達は夕飯の為に獣を屠ることにした。
鹿は簡単に捌けた。
まるで始めから、そういう風に捌けるように継ぎ合わせられていたみたいに簡単だった。
次は猪。
私は手斧を猪の頚に振り下ろした。鈍い音がして猪の第一脛椎が砕けた。
毛皮が裂けて、炎のように燃えたぎる血潮が見えた。
もう一度同じ場所に手斧を下ろしたけれど、それ以上刃が食い込むことはなかった。
手負いの猪は、ドタドタとベランダから家の中に駆け込み、居間を抜けて玄関に向かった。
丁度帰ってきた父が、玄関で鉢合わせた猪に
『イック、ただいま』
と呼び掛けた。
私は焦って
『食べる獣に名前つけないで』
と喚いた。
すると声に驚いた猪が振り向いた。
振り向いた猪はイックの顔で私を見上げていた。
『だから言ったのに』
私は声を絞りだしながら、あとずさる。
イックの上目使いに絶望的な気分が打ち寄せる。
捻れた頚の後ろ側で血が、ごうごうと燃えさかるのが見える。
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