起きたら知らない部屋にいた。
部屋いっぱいに敷かれた布団に知らない人たちが眠っている。
あ、そうだ。松村さんの香港ライブについてきたのだった。
隣の部屋でお母さんとツナが起きるのが見えた。
寝起きの悪いツナは布団の上に起き上がって、ぼんやりしている。さかり上がった寝癖。
お母さんはちゃっちゃと布団をたたみながら、「みんな来ちゃう前に支度しちゃいなさい」とこちらに檄をとばす。
私は、みんなまだ寝てるんだから、と、目と指でお母さんを咎め、しかし素直に風呂場に向かった。
みんな来ちゃうというのは、私たちが音楽フェスの会場に泊まっているから。
お客さんやミュージシャンがこれから集まってくる。
松村さんも、会社内のどこかに泊まっているはずだけど、姿は見かけなかった。
風呂場の戸は立て付けが悪く、全部は閉まらない。
誰か来たら見えちゃうな、と思ったけど、そんなことどうでもよかった。フェスの、いつもは重要なはずの事柄が、どうでもよくなっちゃう感じが好きだ。
支度を終えて外に出た。
春のスキー場のようなところ。
いつの間にか一緒にいた女の子が、あっちでライブペインティングやってるから行こう!というのでついていった。
まだ何も描かれていない緑色の看板と色とりどりのペンキ缶が置いてある。
連れの女の子はペンキ缶に指を浸して、緑の板に色を移した。
来場者参加型のアートらしい。
少し離れたところでは誰か男の人が歌い始めていた。ギターの弾き語り。
弦の音も彼の声も山にじんわり響いていて、人々が少しずつ集まって来ていた。
松村さんはたぶんトリとかなので、まだまだ出てこなそうだな。
別の方に目をやると、少し離れた山肌におしゃれなコテージがいくつも並んでいた。香港にこんなところあったのか。
きっとリッチな人たちが泊まっているんだ。
でも、ちゃんと近くで見なかったからわからないけど、もしかしたら、自分たちが泊まっていた建物も、おしゃれなコテージだったのかも知れない。
弾き語りの方に目を戻すと、数人の男の子たちがこちらを見ていて、なんだか居心地悪くなったので、屋内の会場に移動した。
中ではちょうど女の人の弾き語りが始まるところだったので、慌てて前の方に行って座った。
辺りを見ると小学校に上がる前の子供しかいなかった。大人たちは、遠巻きに立ったり、壁の椅子に腰かけたりしている。
そういえばこのフェスは子供キャンプとか言う名前だったかもしれない。
なんだかそわそわしたけど、近くで彼女のうたを聴きたかったのでそこに座り続けた。
目の前に座っているのが、まだ3歳くらいの弟であることに気づいて抱き寄せた。
子供は体温が高い。
ふと横を見ると、弟と同じくらいの年頃のダウン症の女の子が座っていた。
私が彼女の背中に手を回すと彼女はイヤーとこえを上げた。
「じゃあこれは?」
私がそう言って彼女の手を握ると、彼女は嬉しそうに握り返してきた。
彼女の足には指がいっぱいあった。
指がいっぱいある... と思いながら足にさわったら、彼女がまた派手に嫌がった。
すぐに離して、「じゃあこれは?」と言って、さっきと反対のてを握ると、彼女はとても嬉しそうにぎゅっと握り返して、私の体にしがみついてきた。
彼女の肌はとても熱かった。
*********
ここで目が覚めた。
起きてからかんがえたのだけど、まわりが子供ばかりで、自分が場違いだと感じたとき、私は年の離れた弟のイレギュラーさを理由にその場にいてもよい安心を得ていたのかも知れない。
そして、私は現実でも、しばしばそうゆうことをしてきたのかもしれない。
しかし、少しでいいから、夢で松村さんのフルート聴きたかったな。