ロシアのテレビ局が来日し、通訳をすることになった。
私とゴトウくんで、テレビクルーに同行した。
ゴトウくんはドイツ語専門なのに。
ロシアのテレビクルーなのに、全員軍服。
みんなでロード用のジープに乗って目的地を目指したんだけど、街中で巨大な熊に遭遇した。
その熊、消防署の前を歩いたんだけど、その消防署くらい大きかった。
熊が動くと、滑らかな毛並みの奥で盛り上がる筋肉や骨格が見える。
これ程大きな獣になると、どんなに脂肪や毛におおわれていても筋肉の隆起が見えるんだなあ、思った。
あ、こっちに気付いた。
速く逃げた方がいいのか?
逃げたら追いかけられるから死んだふりがいいのか?
運転手がジープのエンジンを切った。
熊が近づいて来る。
みんな下を向く。熊と目が合わないように...
熊がジープに触る。
がさ、がさ、と音がする。
私、これで死ぬのかな、と思った。
たまに、そういう死にかたする人いるけど、私もこれで死ぬんだな、って思った。
大きな前足の一部がフロントガラスを撫でるのが視界の端に映る。
誰も声も出さず、誰も動かず、じっと息を殺す。
車が揺れる。
しかし熊は、ジープにそれ程長く興味を保てなかったようで、静かに離れていった。
熊が去った後も、私たちはかなり長い間、ただそうして黙っていた。
熊遭遇のショックで、一行は道に迷ってしまった。
というか、目的地がなんだったか、よく思いだせない。
何度か、自衛隊か、グリーンベレーらしき隊列とすれ違った。
ヘリも飛んでいた。
多分、あの熊の対処にあたるのだろう。
日が暮れてきた頃、なにか、セクトのようなところに入った。
米軍の基地らしい。
地下にかなり広い施設がある。
私たちも兵士のフリをして潜入した。
ショッピングモールの吹き抜けテラスのような場所に兵士がいくつか輪をつくってたむろしている。
天井は光を取り込む作りになっているけど、地下だから、降り注いでいる
私は女ばかりの輪に招き入れられた。
やたらとウェルカムな雰囲気が、アメリカの映画とかでよく見るセラピーのクラスみたいだ。
不自然に甘い空気の中でみんなの自己紹介を聞きながら、頭からはあの熊のことが消えていなかった。
ここなら、軍事基地だし、大丈夫、大丈夫、と、無意識のうちに自分に言い聞かせている。
この、感じ、高校生の頃に読んだ、村上龍の「五分後の世界」に似ている。
ここは安全。でも、ほんの束の間の安全。
そんな感じ。
夜中を過ぎたころ、一人の兵士がテラスに入ってきて言った。
「みなさんご存じないと思いますが、xx時39分、あの熊は射殺されました。」
テラスがさわさわした。
安心したけど、なにか、失望した気がした。
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