モスクワ留学中のこと。
大学と駅がくっついている。
くっついている駅はシャルルドゴール空港。
空港の外の街並みは、五反田にそっくりである。
私はコモリヤさんと、駅構内の食堂で、店員が注文をとりにくるのを待っている。
待てど暮らせど店員が来ないので、カウンターに行ってみると、学生達がむらがっている。
どうやら学生達の注文や要求を、店員が拒否しているようだ。
大人の私たちは、すましがおで社員特権の濫用を試みた。
しかし
「私達ここの社員です。カレーをください」
と言っても、店員は顔色ひとつ変えるでもなく、無愛想に
「そのサービスは廃止になった」
と言い放って奥に引っ込んだ。
あそうか、ここはロシアだった、と思った。
仕方がないので私達は食堂を出て大学構内をぶらつくことにした。
古い音楽室を見つけた。はしゃいでモーツァルトのメヌエットをひいたら、鍵盤の同じところの色が剥げていた。みんながみんなメヌエットを弾くせいだと思った。
カシオトーンもあった。
弾いてみると、レイハラカミの曲みたいに弾けて、めちゃめちゃ気持ちよくなった。
あまりに気持ちよくてずーっと弾いていたので、一緒にいた人たちは引きぎみだった。
カシオトーンは大きいのと小さいのがあって、大きい方は汚れていた。
よく見てみると、チエリちゃんとカズキくんともう一人知ってる女子の名前がイタズラ書き風に書いてあった。
カシオトーンが自分達の学校のつかいまわしであることが判明した。 一気にみんなテンション上がった。
その後飛行機に乗って帰ることになったが、空港に行く途中、トイレに行きたくなった。
劇場風の講堂と入試課を抜けて用をたし、急いでターミナルに戻ったら、トイレに飛行機のチケットと、茶色いセカンドバッグを忘れてきてしまったことに気づいた。
折角待っててくれたトイヤさんに先に搭乗するように言って、もう一度、劇場風の講堂を抜けて、入試課の前を通った。
入試課はナースステーションみたいな雰囲気で、ここは病院併設の医大なのか、と納得した。
カウンターには医者の顔写真が貼ってあって、「停職中」と書いてあった。こころやさしそうな顔の医者だった。権力争いに巻き込まれたのかな、と思うと気の毒になった。
室内にはたくさんの、白いウェアを着たおばちゃん達が詰めていた。多分ヘルパーの人たちだ。みんな、もう殆どおばあちゃんだった。
日本はどうなるのだろう、と思った。