2020年5月9日土曜日

狸顔の馬、雪原の鮮血

モルタルの白壁を切り取った、ガラスの嵌っていない窓から、もこもこの獣がこちらを覗いていた。褐色の体に目鼻の周りだけ黒い。狸?にしては大きい。もこもこの毛に包まれて、輪郭がよくわからない。

「馬だよ」

そばにいた弟が言った途端、獣の輪郭がぐんと固まって、もう馬にしか見えなくなった。

「馬か」

顔の中心が黒いのは変わらずで、なんとなく狸のような茶目っ気は残っている。


弟に促されて部屋を出て、玄関を開けたら雪景色が広がっていた。
晴天の日差しを跳ね返して、あたり一面が光り輝いている。
ずっと遠く、豆粒の塊みたいなものがゆっくりと動いている。隊列かなにか。
と、低い、何かがはじけるような音がして、手前の人の群れが、真っ赤に染まった。鮮やか赤色が雪を染めて美しい。

同じ爆発が何度か続いて、やっと、人が殺されているのだとわかった。美しい赤は、鮮血の色だ。
殺戮の隊列が段々と近づいている。

怖くなって部屋に戻る。
戻る途中で会った大人たちが、私と弟を奥の部屋に隠した。
敵の狙いは私たち姉弟なのだそうだ。

毛布にくるまって、震えが止まらない。

「○○ちゃんはそこに隠れてて。僕が守ってあげるから。」

弟がそう言って部屋の入口に構える。
離れているのが怖くて、私も弟のそばにかけよる。

小窓から人々が見えた。
鎧を着た敵の群れ。

私はその人々に狙いを定めて

「燃えろ」

とつぶやいた。
途端に甲冑ごと炎に包まれる。

「燃えろ…、燃えろ…」

目に入った敵に、次々と火をつけていく。
罪悪感はあったけれど、背に腹はかえられない。
それよりも、自分の炎で本当に敵が死んでくれているのか自信がなく、恐怖心の方が大きかった。


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目が覚めてから、あの能力のせいで狙われていたのかな、と思った。
弟は知らない男の子だったし、私も、知らない女の子の名前で呼ばれていた。

2020年5月5日火曜日

カンバーバッチ、ピアノ

実家。
小学生の末の弟と二人。
カンバーバッチが訪問してきた。
彼は父に用があるようだったけれど、父はいなかったので、小学生の弟としばらく庭で遊んで帰った。
次の日、みいちゃんが来た。
昨日カンバーバッチが来てたんだよ!と教えた。二人が鉢合わせにならなかったのがとても残念だと思った。なぜかとても二人を会わせたかった。
みいちゃんも会えなくて残念そうだった。

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階段の、踊り場で、かつての同級生とすれ違った。

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二子玉の蔦屋家電みたいなラグジュアリーなお店。本屋件雑貨屋みたいな。
二階にイベントスペースがある。午後の陽が降り注いでいる。奥の陰に、グランドピアノがある。
ライブが始まるのを待つ人がパラパラとたむろしている。
私はいつものように後ろの方でぼんやりと立っている。
左斜め前あたりにいる人たちが、「あいつ来てないの?」と話している。
あいつとは、おそらくいつもこういうライブの時に見かけるあの男の子のことだ。
小さなライブハウスのコミュニティで、知り合いでないけれどなんとなく顔見知りで、たぶんこのライブには来そうだなと思ったらだいたいいる、みたいな男の子。
「○○さん、引っ越したって。」
「あ、そうか、もう東京にいないのか。」
あ、そうか、最近、東京に住む意味ないとかで田舎に引っ越す人増えてるもんね。彼も引っ越したのか、と納得した。

スタッフの人が椅子を並べはじめた。
「皆さんもう少し詰めて座ってください」
とみんなを誘導している。
「ここは換気ちゃんとしているので、密にならない程度に詰めていただいて大丈夫です」
誘導されるままに前に詰めて、空いている椅子に座る。
確かに、椅子は、隣の人には触れずに済むほどには間隔が空いている。これなら十分そうだ。ここのスタッフは合理的で好感がもてるな。

ライブが始まった。
ピアノ弾き語り。アメリカ人の、丸っこい赤髪の男。
最初の曲はグランドピアノで。
鍵盤が叩かれると、木壁にしみこむ音の幾割かが跳ね返って背中に触れる。
背中にしみこむかすかな反響を感じながら、私は胸が熱くなるのを感じる。これだ。このために私はここへ来た。音で満たされていく空間に体を浸すこの感覚。
一曲目はB.O.G.という曲で、何の頭文字なのか、ミュージシャンが説明してくれて、なるほどと思ったけど忘れた。
二曲目は、グランドピアノの後ろにあったエレピで。赤かったので多分nordのピアノ。
ペラっとした音は、抑え気味な歌と相まって、淡々とした暮らしの片鱗を紡ぐ。
少し眠い。