母が人を刺して殺した。
私はそれを黙って見ていた。
殺されたおじさんは、確かに殺されても仕方ない人だった。
けれども、一部始終を見ていた私には、母の行動が正当防衛と言えるものではなかったことも、よく理解していた。
がっかりだった。
全ての理由が単純すぎた。
そんなことで殺すなんて、なんてチープな筋書きだろうと思った。
そこにはなんの複雑な対話も葛藤もなかった。
そんな母の単純さにがっかりしていた。
父にこの事を報告するのは、さすがに気が引けた。
殺されたおじさんは父の知り合いでもあった。
話を聞いた父の反応は、母が訪問販売に騙されて高額の印鑑を買わされたのを聞かされた時と似ているきがした。
「仕方がなかったと思うよ」
と私は言った。
「お母さんは悪くなかった」
私に庇われた母は、安心したようだった。とたんに笑顔になった母にイラついた。
仕方なかったとしても、母が悪くなかったとしても、そこは罪の意識に苦しんで欲しかった。
悪びれていない母にイラついた。
「お母さんは悪くないけど、私はお母さんとは違う」
私は穏やかに言ったつもりだったけれど、母の顔はこわばった。
テント。
青空。
サーカス。