税金とかの手続きの関係で、1日だけ高校に戻って授業を受けなければいけなくなった。
直属の上司が、教育実習の先生の体でついてきてくれている。
夢の中では辛苦を共にした上司、というような意識でいたけれど、今思い出す限りではまったく見たことない男だった。
体が小さくて、比率的に顔がデカイ。
茶髪でタイトな黒のスーツを着ているその上司は、高校では英語の教鞭をとるらしかった。
私は彼の授業中に早弁をしていたのだけど、こそこそ食べるのに疲れたので、教室の外に出た。
出るとき、手がすべって、割りばしの片方が隣の教室の廊下に飛んでいってしまい、慌てて拾いにいった。
隣の教室の廊下は学ランの生徒であふれかえっており、なんか異常で不毛な活気に満ちていて、割りばしとりにいっただけなのに、いい年してドキドキしてしまった。
それから弁当は食べず、トイレに入った。
トイレは男女共用で、私は男性用小便器でタチションをした。
ふと隣を見ると、レイちゃんがタチションしていた。
あまりにも久し振りでびっくりして、自分もレイちゃんも女なのにタチションしてることにはなんの違和感ももたなかった。
それよりも、用を足している間に私が考えたのは、トイレや廊下の壁にほどよく施された落書きのことだった。
落書きなんだから、ランダムに書きなぐられているはずなのに、何となく統一感があり、60年代のような、学生闘争時代を思わせるような、レトロな雰囲気がある。
ホベ校の落書きの独特さがなんだか誇らしい気がした。
トイレのすみではイケメンの男子生徒の二人連れがいて、ニヤニヤしながらこっちを見ていた。
十代のガキんちょと侮りながらも、やっぱりドキドキしている自分がいて情けない。
しかもよく考えたら、用を足しているところを見られてるんじゃないか!?
事実にがく然としたところでそそくさとトイレを後にした。
教室に戻ると、上司の英語の授業がまだ続いていた。私が堂々と教室に入っていっても、見とがめる者はない。出入り自由な校風らしい。
上司の英語授業は白熱していた。
大阪のオバチャンみたいな振る舞いで生徒を笑わせたかと思うと松岡修三なみの熱弁を奮う。
生徒たちは授業にすっかり夢中になっている。
みんなが先生に当てられたくて手をあげる。私も喉から手が出るほど当ててほしかったが、大人なので我慢して、ずっと静観を決め込んだ。
上司の授業は本当に素晴らしく、私、この人の部下でいることが誇らしい...!
と思えてきて胸が熱くなった。
授業が終わって教室を出ると、一緒に出てきたソース顔の女子が
「私来週から保育園の実習でまた来るからよろしくね」
と微笑みかけてきた。
そんなこと言われても私はまた来ないからなんと答えていいか分からないし、この人雰囲気がシラタさんににてるなあなんて思ってボーッとなっていると、廊下の向こうからヨシコフが歩いて来るのが見えた。
ヨシコフは妖怪じみた様子に一段と磨きがかかってきて、ハウルの動く城に出てくる魔女のようだった。
「あ、ヨシコフだ」
隣でそう呟いた男子生徒はウエスギくんとシンヤくんを足して二で割った感じの不思議な顔をしていて、ついまじまじと見いってしまった。
するとその男子生徒は照れくさそうに、
「や、自分でも俺最近ヨシコフにマジそっくりだなって思うんだよね」
と言った。
言われてみると、たしかにヨシコフに似ている気がして、でもやっぱり全然違う気もして、さらにじろじろ見てしまった。
帰り道、マッキーと一緒になった。
マッキーがみんなを懐かしがるのでなんか嬉しくなった。
キッちゃんちの前の仲良し公園で、ミーちゃんとかマイちゃんとかに電話をかけて呼び出すことにした。
仲良し公園は暖かな夕陽に包まれていた。