崖、と言っても、自然にできたものではなく、コンクリートや樹脂製の人工的な素材からなるそれは、本当なら瓦礫と呼ばれるものなのかもしれない。
登るものがいるから、それは「崖」なのであり、落ちる危険を孕んでいるから、それは「崖」なのである。
登る者は三人。
何かに追われて、崖をよじ登っている。
一人は、とにかく自分だけ助かろうとする者。
一人は子供。
一人は、子供も助けようとするもの。
三者に、この崖に直面する前の関係性は無い。つまり他人同士である。
ある時、自分だけ助かろうとしていた方が、転げ落ちそうになった。
子供を助けながら登っていた方が、自分の危険を顧みず、彼女を助けた。
助けたあと、小さな踊り場の様なところで、彼女は言った
「ある偉人の言葉に『長い一つのストーリーより、似て異なる沢山のショートストーリー』というのがあって、私はその言葉を支持してるの」
それから彼女は、その言葉を支持している有名人と支持していない有名人を列挙し始めた。
私は「今の時代は誰がどの格言を支持してるのかまでわかるのか。私も今度ウィキってみよう。」
と思った。
因みにこの崖のシーンに私は出てきていなかったので、これは夢に対する純然たる感想である。
街でも、人々は逃げ惑っていた。
皆、海を目指している。
湾にはタイタニックのような汽船が筍のようにひしめいている。
空の一角に、鮫の歯牙のようなものが生えている。
歯牙の奥は氷っていた。
空が氷っている。
その下の大地も然り。
そこはすでに不毛の地だ。
空中を走る氷の牙。
まるで死のつらら、ブライニクルのようだ。
本当のブライニクルが、水中ではなく空中で発生している。
人々はコレから逃げているのだ。
先程の、崖を登る三人も、コレから逃げていたのか、と、納得した。
閑散とした市街に女声のアナウンスが流れた。アナウンスというより、ナレーション風。
「最後に街の権力者と教育者たちを乗せた船が出発しました。あとに残るは...(ここで声の主が声を詰まらせる)あとに残るはおネエたちのみです」
残されたおネエたちは、しかも高齢者ばかりだった。
歳はとってもおネエはおネエ。
いつ氷付けにされても悔いはないように、全力で、そして面白おかしく生きている。
ドラッグクイーン御用達のいかついツケマも、寄る年波のせいか手元が狂って眉毛の上に付けてしまったりしているけれど、彼女たちは明るい。
こんなの何度かまばたきしてるうちに馴染むわよって笑っている。
ここで、突然映画のスクリーンの映像が流れ始める。
今はほぼ死に絶えたこの街の歴史を映すスクリーンである。
封建的時代、
戦前のモダンタイムス、
69的闘争の時を経てなグループサウンズ時代...
このグループサウンズな時代の若者をピースの又吉が演じていた。
あまりのはまり役に私はため息をついてしまった。
それから、そのグループサウンズ時代のエピソードとして、前田司郎の結婚秘話が描かれていた。
あまりにも不意のことで私は爆笑し、早くこの映画のことケイちゃんに教えてあげなきゃ、と思った。
前田司郎は頭から水をかぶってそのまま痩せ我慢してベッドで眠り、その奇行と風邪で彼女の気を引いて、最終的になんとなくゴールインした。