教室が3つ並んでいて、一番奥の教室で、私は洗い物をしていた。
テレビが付いていて、なにか面白いアニメをやっているもんだから、手元の洗い物はもうとっくに済んでいるのに、茶碗を手で転がしながら、だらだらアニメを見ていた。
いい加減、隣の教室に戻らなくちゃと思い、やっとテレビの部屋を出た。仕事をしていて戻るのが遅くなった風を装うために真ん中の教室の前をバタバタと足音を立てて通り過ぎ、一番手前の教室の中をのぞいた。中は薄緑色でとても禍々しい雰囲気で、除き続けることに耐えられず、すぐに真ん中の教室に戻ることにした。
真ん中の教室に入ると、先生らしき女の人と生徒らしき数人が、向かい合って正座していた。視線が自分にそそがれて、私はごくりと唾を呑んだ。
「あの、洗い物していて…」
と、しどろもどろに言い訳すると、先生がぴしゃりと言った。
「では、どうして耳がサルになっているの?」
慌てて耳に手をやってみると、確かに右耳がサルの耳になっていた。
責めるような先生の目。
「あの、隣で聴き耳立ててて…」
こんなこと言い訳にならない、と、頭の中で呟きながら、それ以上言うことが見つからず、いたたまれぬ思いで立ち尽くしていた。
*****
体育館を出発するときには仲間がたくさんいた。
仲間たちはクレイアニメのような質感と色合いで目まぐるしく姿を変えた。
誰かが、名古屋のご当地キティちゃんになる権利を手に入れたとか何とか言っていた。
気づいたら、仲間は、私を含めて3人だけになっていた。
そのうち一人は実は裏切り者で、私たち2人を陥れようとしていた。というか殺そうとしていた。
たぶん、最後まで生き残って建物から出られたらハッピーエンド、というような設定の夢だったんだと思う。
私たち3人は鏡の扉だかなんだか、そんな名前の扉の前に出た。
どうして扉の名前なんか知っているかというと、扉の上に、道化のような格好をした扉の番人ぽい人が横座りしていて、そう言ったから。
扉は、真ん中に、左右を区切る透明な仕切りがあって、右側には子供の大きさ程度の、ゴシック様式の建物が据え付けてあった。建物は時計塔と本館からなり、手前には優雅で明るい庭園が広がり、庭園の中には3本の枕木を瀟洒に組み上げたアーチがあった。建物の上は青空が澄みわたり、完全な異空間の体をなしていた。
左側には何もなかった。
どうやったらこの扉を通れるか、番人が説明し始めたところで、私以外の2人が扉のほうへ駆けだした。仲間は右側へ。裏切り者は左側へ。
右側に進んだ仲間の体がしゅるりと縮んで、ミニチュアのアーチに吸い込まれた。
左側に進んだ裏切り者の体は、扉を通り過ぎる時一瞬ぱちんと消えた。
二人とも、無事に向こう側に抜けられたようだ。
番人が、2人同時でないとこの扉は通り抜けられないと、今更説明した。
1人になった私が途方に暮れていると、裏切り者の方が、悪い顔でにやつきながら、左側を通って帰ってきた。もどってくる場合はひとりでも平気らしい。
そして改めて、扉の方に走り出した。この流れは、多分私が右の扉、彼が左の扉を抜ければうまくいくという方向だ。
けれど私は右の扉に進まなかった。
裏切り者は1人で左側の扉を通り抜けた。
何でもないようにみえた。
しかしその時、私は見た。扉の左側の、さらに左淵が戸袋のようになっており、その戸袋の中に白い羽に覆われた化け物が潜んでいるのを…
私は心の中で、化け物が裏切り者を襲うように念じた。
私の願いが通じたのか、化け物が刹那の速さで扉から顔を出し、裏切り者を食べた。
裏切り者の足が、化け物の口からはみ出てもがいているのが見えた。
目覚めて、こうやって書いてみて初めて、彼は本当に裏切り者だったのだろうかという疑問がわく。
私はどうして彼を裏切りものだなんて思いこんでいたのだろう。
一緒に扉をくぐろうとしてくれたのに。
化け物に食べられてしまった時、どうして胸がすっとしたんだろう。