2025年3月15日土曜日

現実では体験したことのない感情

一息ついて目線をあげると、棚の上に見慣れない大きなテレビモニターが設置されていた。リモートワーク中。
この前トモちゃんが持ってきた、一回り小さめのモニターもあるのに。眉間にしわが寄る。
トモちゃんが部屋に戻ってきたら、使うものなのか確認しなくちゃ。いらないなら今すぐ処分してしまいたい。いるにしても、はやく持って帰ってほしい。

そもそもそのモニターが両方生きているのか確かめようとおもって立ち上がると、棚の奥に、様々な白モノ家電が、ごちゃごちゃと積み上げてあるのが目に入る。これも全部トモちゃんが持ち込んだもの?全部勝手に処分してしまいたい。

目の前を人が横切った。
妹が連れてきた海外からの旅行者だろうか。別に、うちは出入り自由だからいいんだけどさ。私一応仕事中なんだけどな。横切っていく男を目線で追うと、彼は、窓際に置いてあった黒いスピーカーの前で飲みもの片手に仲間たちと談笑し始めた。途端にスピーカーがずんずん震えて大音量を発し始める。大人の背丈ほどもあるスピーカー。
大きいだけで、新しくもないし、音質がいいわけでもなさそうなスピーカー。うちには池袋のタワマンの下で拾ってきた立派なスピーカーがあるのに。こっちで十分なのに。誰が持ち込んだのだろう。

わざと足音をたてながらスピーカーに近づいていくと、窓の外に広々とした木造のテラスが広がっているのが見えた。黒い革張りのソファーや、シルバーやガラスのテーブルや間接照明、観葉植物なんかが配置され、たくさんの男女が飲み物片手におしゃべりしたり、音楽に合わせて体を揺らしたりしている。
こいつら人んちで何やってんだ。

「ここ作った責任者だれ?」
私はイライラとまくしたてた。
へらへらと背の高い男が近づいてきた。
「お姉さん、そんな怒らないで、終わったらちゃんと撤収するから。お金も全部こっちもちだし」
そうゆう問題じゃねえだろ。
「大家さんには許可取ってるわけ??」
「とってるとってる」
にやついたまま男が答える。
場の空気を壊さないように精一杯笑顔でエレガントに振る舞っているんだろうが、たんにこちらを馬鹿にしてるように思えてならない。ふざけやがって。
「大家さんに許可とってて、なんで住人の私に前もって一言ないんだよ!」
いつの間にか音楽はやんでいて、私の怒声が広い空間にしんしんと響く。おしゃべりも止んで、みんなこちらに耳をそばだてている。うつむいているヤツは全員二やついている気がしてはらわたが煮えくり返る。

「何やってんの」
糾弾する声に振り返ると険しい顔の父が飲み物片手に立っていた。
「何をそんなに当たり散らしてんの?」
「だって私のうちなのにこんなにめちゃくちゃにされたんだよ」
「めちゃくちゃになんかなってないだろ」
父がさらに語気を強める。
「こんな広くしてもらって、家具もいっぱい入れてもらって、何が不満なんだ?」
「私はできるだけ狭いところにできるだけ何も持たずに暮らしたいんだよ」
怒りで声がかすれていた。
そこで目が覚めた。

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朝目が覚めてすぐ、わたし深層心理では部屋を広くされたりものを増やされたりするのあんなに我慢ならないんだ...とぼんやり思った。それから、目が覚めている自分なら、勝手にもの増やされたり勝手に家広くされたりしてもここまで怒らないだろうなあとも思った。たぶん、心の中では多少不快に思っても、別に怒ったりはせずに頃合いを見て引っ越したりするかもな、とも。

今すっかり目が覚めている状態で朝のことを思い返すと、「家を勝手に広げられる」とかいう状況が、さもあり得るシチュエーションのように思考していたのはやっぱ寝ぼけていたんだなわかる。現実ではあんなにいらいらしたり腹が立ったりすることはないので、自分でも少し戸惑ってしまったな。

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