帰り道、歩きたい気分だったので駅には向かわず商店街を歩き続けた。
東京の街は、どこまでいっても途切れることなく商店街が続く。
すっかり暗くなって、気づけば家からずいぶん遠いところに来てしまったようだ。
徒歩ではどうやって帰ればよいのかわからなくなってしまったので、次に差し掛かったバス停からバスに乗ることにした。
バスの中はおじさんとおばさんでいっぱいで、和やかな雰囲気が流れていた。
席に座ると隣に座っていた知らないおじさんが話しかけてきた。
「俺お金いっぱいもってるからあげるよ」
手には鷲掴みの札束。
びびって必死に断る。押し戻すおじさんの手から一万円札が数枚舞い落ちるのが見えた。
札束おじさんは斜め前の席に座るおじさんにも札束を進めて断られていた。
そりゃ断るよな。怖すぎるよ、突然の札束は。
しばらくして、私はバスがどこに向かっているのかわからないことに気づいた。
札束を断っていた方のおじさんに、バスが自分の最寄り駅を経由するのかと尋ねようと思ったが、なんとなく質問が自分本位すぎる気がして、バスの行き先を尋ねるにとどめた。
行き先は知らない地名で、自身の居住地付近を経由するのかどうかはわからない。
スマホのマップアプリを開いてバスの現在地を確認すると、どうも渋谷を通るようだ。
その後の経路はわからないが、渋谷からなら電車での帰り方がわかるので、渋谷で降りることにした。
さきほどのおじさんにもう一度訪ねると、ポラン渋谷前で停まるとのことだったのでそこで降りることにした。
おじさんは先ほどの先ほどの札束おじさんをこっそり指さして、
「ロトで当たったらしいよ」
と小さな声で教えてくれた。
言われてみれば、札束おじさんのカバンにはビンゴのカードのようなものがのぞいていて、真ん中の一列がきれいに空いていた。
バスを降りる頃にはおじさんたちとすっかり打ち解けていて、なんだか別れがたく、名残惜しい気がした。
ポラン渋谷前で降りると渋谷駅の併設ビルからミュージシャンが出てくるところで出待ちの群衆が上を下への大騒ぎだった。
ミュージシャンは往年のパンクバンドで、女性ボーカルが寄せられたポリンキー型のファンレターをみんなの前でドラマチックに読み上げては地面にたたきつけていた。
砕けたポリンキーの黄色い粉がそこらに飛び散っていた。
バスから一緒に降りた人が、先ほどまで乗っていたバスの情っ客たちのほとんどが、明言を避ける必要のある団体とかかわりがあるのであって、例のロトも、その団体の若い衆に裏でいろいろさせた結果なのだという噂をしていた。
なんという内容の無い曖昧な噂なのだ。そう思いながら、心のどこかでは、やっぱりなと納得している自分もいるのだった。
なにがやっぱりなんだよ。